【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 侯爵家の令嬢であるミシェルと、伯爵家の令息であるクレマンは、ゆっくりと愛を育んでいき、ついにクレマンはミシェルに求婚し――晴れて婚約者になった。

「劇になりそうね……」
「当時の女性たちの憧れでしたわ」

 くすり、と小さく笑うロレーヌに、アナベルは小さくうなずく。

 ミシェルの育ちの良さを感じるときは多々あったが、まさか公爵家の令嬢だとは思わなかった。

「それがなぜ、踊り子に?」

 ロレーヌは目を伏せた。当時のことを思い出し、ぐっと拳に力が入る。

「――ミシェルは、婚約から間もなく、子を宿しました。好きな人との子です。彼女はそれを伝えに騎士団までクレマンに会いにいきました。しかし……その帰り道、階段から転げ落ちた(・・・・・・・・・)のです」

 ひゅっと、アナベルが息を()む。

 途中までは幸せな話だったのに、と彼女の表情が強張(こわば)った。

「当時のミシェルは本当に幸せそうで、誰が見ても彼女は美しかった。……それを許容できない人が、いたのです」
「……まさか」
「ええ、ご想像の通りかと……」

 アナベルはぎりっと下唇を噛む。

「イレインの手先に、ミシェルは背中を押され……」
「……お腹の子は……?」

 ふるふると首を左右に振るロレーヌ。

 エルヴィスは視線を落とし、ロレーヌの言葉を引き継いだ。

「――ミシェルは落ち込み、クレマンは彼女を支えた。だが、イレインが絡んでいる以上、王都に残るのは危険だと考え、駆け落ちのように去っていった。だからこそ、遠征でクレマンたちと再会したときは驚いた」

 再会したとき、ミシェルは以前のような明るい笑顔を取り戻していた。

 そして、旅芸人としてこの国の人たちを笑顔にするためにがんばっていると聞き、エルヴィスは自分も気を引き締めなければならないと考えた。
< 108 / 255 >

この作品をシェア

pagetop