【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 アナベルは話を聞いて黙り込んだ。自分に優しくしてくれたミシェルのことを思い出し、ぐっと耐えるように目を閉じて深呼吸を繰り返す。

「王妃サマは、そんなに前からこんな酷いことをしていたの?」
「――彼女は、自分が一番ではないが気が済まないのです。国随一の美女がいると聞けば、呼び寄せてその顔を傷つけたり、乱暴に扱ったり……。自分よりも若い女性は全員敵、とでも思っているのでしょう」

 ロレーヌは、真摯(しんし)なまなざしをアナベルに向けた。

「――あなたのその美貌も、王妃は面白くないでしょうね」
「……ふぅん。それって、あたしがこの美貌を保っていれば、王妃サマがちょっかいを出してくれるってことよねぇ?」

 そっと自分の頬に手を添えて、口元に弧を描く。

 彼女の笑みは、自信に満ちていた。

 ――彼女は自覚している。自身の美しさを。

 そして、その美しさは必ずイレインを動かすだろうと、と。

「本当に、肝が据わっている。頼もしい限りだ」
「だぁって、あたし、失うものはないもの。血の繋がった家族も、故郷もないのだから」

 ふっと不敵に笑うアナベルに、ロレーヌの目が見開かれた。
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