【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

番外 王妃 イレイン

 ――すべては自分の天下だった。

 公爵家の令嬢として生まれ、エルヴィスに出会ったのは――彼が五歳、イレインが十歳の頃。

 その頃にはすでに、婚約者として彼を支えるようにと両親からも伝えられていた。

 それから五年後、国王夫妻が亡くなり、エルヴィスが十歳という幼さで即位することになった。即位に合わせ、エルヴィスとイレインは籍を入れる。

 五歳年上のイレインは、彼よりも国内のことを熟知していた。彼よりも自分に相談されることが多く、優越感に浸り……エルヴィスの側近を自分の味方で固めることに成功した。

 当然、エルヴィスの発言力は弱く、このまま自分の好きなように国を動かせる――そう、信じていた。

 だが、エルヴィスが十五歳になる頃には、立場が逆転していた。

「――陛下が覚醒(かくせい)しましたの?」
「はい。氷の魔法が目覚めるの、早かったですね。これで王妃陛下も少しは楽に――きゃぁアアアッ!」

 イレインはバシン、とエルヴィスのことを報告してきたメイドを平手打ちした。

 それも、顔を狙って何度も。

 わけがわからず泣き叫ぶメイドを冷めた目で見て、イレインはくすりと笑う。

「――すべて、(わたくし)のものだったのに。ああ、イライラが止まりませんわ。――そうだ、ねえ、あなた。確か私よりも若かったですわよね。うふふ……」

 イレインはナイフを取り出し、彼女の顔にピタピタとナイフを触れさせる。つぅ、と頬から血が流れるのを見て、恍惚の表情を浮かべて目元を細めた。
< 112 / 255 >

この作品をシェア

pagetop