【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「ねえ、ご存知? 自分よりも若い女性の血を浴びると、若返るんですって。――うふふ、ねえ、私のために、その血をくださいな」

 そのときのイレインの瞳は、狂気を宿していた。

 助けを求めるメイドの声が響く。

 ――だが、誰も動かなかった。動けなかった。

 彼女を(かば)えば、次の犠牲者は自分なのだと、悟っていたからだ。

 イレインは彼女の血を指で(すく)い取り、自分の肌に塗りつける。

 メイドは恐怖と絶望でカタカタと震えていた。

「ああ、かわいそうに。でも、大丈夫ですわよ。――あなたはもう、私の(かて)になるのですから」

 にっこりと笑い、パチンと指を鳴らす。

 彼女の部屋に護衛の騎士が現れ、メイドの腕を引っ張り立たせると、イレインの部屋から連れ去った。

 ――その後、メイドの姿を見た者はいない。

「ねえ、絨毯が血で汚れましたわ。この絨毯を捨てて、新しい絨毯を用意してくださる?」

 くるり、と別のメイドたちに顔をむける。

 メイドたちは震えながらも、それを誤魔化すように「はい、ただちに」と恐怖で引きつった笑みを浮かべてイレインの部屋から逃げるように出ていった。

 イレインは鏡の前まで足を運ぶと、血に濡れた肌と別の場所を見比べて、目元を細める。

「やはりもっと若い女性の血が良いのかしら……?」

 じっと鏡の中の自分を見つめて、ぽつりとつぶやいた。
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