【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ダヴィドの言葉に、貴族たちは「まあ」や、「幼い頃から災難でしたのね」などの同情の声が集まる。

「陛下は彼女をたいそう気に入ったようで、そんなに苦労してきたならば、これからは少しでも楽をさせてあげよう――そう考え、アンリオ侯爵家との養子縁組(・・・・)を提案したのです」

 すらすらと言葉を並べるダヴィド。

 貴族たちは養子縁組と聞いて、目を丸くしていた。

 アンリオ侯爵家といえば、二十年ほど前に国随一と言われていたミシェルが駆け落ちしたことで有名になった。

 その後、ミシェルがいなくなったことがショックで、すっかり社交界にも顔を出さなくなったと言われていたが……

(ミシェルの生家の養子縁組をした、ですって?)

 イレインは心の中でつぶやき、大袈裟なほどに目を見開いてみせた。

「まぁっ! 陛下ったら慈悲深いのですね。……その慈悲深さを他の方々にも与えれば良いものを……」

 頬に手を添えながら、しみじみと言葉をこぼすイレインに、アナベルは小さく笑う。

「どうかしまして?」
「いいえ。エルヴィス陛下は本当に慈悲深くていらっしゃいますもの。王妃陛下がそのことを口にしてくださるなんて、嬉しい限りですわ」

 にっこり。

 アナベルは花が(ほころ)ぶように微笑む。

 それを見ていた男性たちは、思わず彼女に見惚れてしまった。

 顔が赤くなっているのを見て、アナベルがキョトンと首をかしげる。

「顔が赤くなっていますが、大丈夫ですか?」
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