【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 心配そうに眉を下げて男性を見つめるアナベルに、男性はハンカチを取り出すと滲んだ汗を拭い、「だ、大丈夫です」と上擦った声を出した。

 アナベルが「良かった……」と胸元で手を合わせてはにかむと、その姿を見た男性たちが耳まで顔を真っ赤に染める。

(……女性に免疫のない人たちばかり、集まっているのかしらねぇ……?)

 あまりにも初心(うぶ)な反応をされて、アナベルのほうが内心驚いてしまった。

「――エルヴィス陛下がいらっしゃいました」

 イレインよりも年上の女性が、彼女の耳元でささやく。

 彼女が顔を動かすのと同時に、アナベルも動かした。

 エルヴィスが近付いてきたのを確認すると、アナベルはぱぁっと表情を輝かせる。

「――待たせたな、ベル」
「いいえ。陛下をお待ちしているあいだも、デュナン公爵と王妃陛下が話し相手になってくださいましたから」

 エルヴィスがそっとアナベルの腰に手を回し、その身体を自分へと引き寄せた。

 アナベルはうっとりとしたように恍惚の笑みを浮かべて、彼に甘えるように寄りかかる。

 それを見ていたイレインは、表情を歪めた。

「……ずいぶんと、お気に入りですのね」
「ああ、それはもう。こんなにも美しい女性を見るのは初めてだったからな」
「まぁ、陛下ったら……」

 アナベルは恥ずかしそうに、ポッと頬を赤らめた。
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