【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

紹介の儀 2話

 それを見て面白くないのは、もちろんイレインだ。

 それでも、彼女は本心を探られないように、美しい笑みを浮かべる。

 ずっと彼の(そば)にいたというのに、アナベルに(そそ)がれるような愛情深いまなざしを受けたことなど、一度もない。

 むしろ、忌み嫌うように冷たい視線ばかりを受けていた。

「――陛下は魔物の討伐で王城を留守にしてばかりですから、支えてあげないといけませんわ」

 イレインはちらりとエルヴィスに視線を送り、柔らかい口調でアナベルに語りかけた。

 エルヴィスが氷の魔法を使いこなせるようになってから、王城で政務をするのはエルヴィスが選んだ側近が主(・・・・・・・・・・・・・)だ。

「はい、王妃陛下。お任せください。エルヴィス陛下のことを、心身ともに支えますわ」

 そっと、アナベルは片手をエルヴィスの胸元に置いた。くすぐったいのか、彼ははにかみ彼女を愛しそうに見つめる。

「……驚きましたわ、陛下。そんな顔をして笑うことができるのですね」

 自分に一度も向けられたことない笑みを視界に入れ、イレインが息を吐いた。

「――良い女性だろう?」

 ――お前とは違って。

 そんな声が聞こえそうなほどに、イレインに対して冷たい声とまなざしを送るエルヴィスに、「っ」とイレインの息を()む音が耳に届く。

 この場に貴族たちは、緊迫した空気にハラハラしながらエルヴィスたちを見つめていた。

 ――エルヴィスとイレインの仲が、そんなに良くないという噂を耳にしたことはあるが、これほどとは――……と。
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