【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……陛下。そんなに冷たい目を向けては、王妃陛下が(あわ)れですわ」

 睨み合う二人。

 しんと静まり返った会場に、アナベルの言葉が響いた。

 それも、かなり同情しているような声で言うものだから、イレインはギッと鋭い眼光をアナベルに向ける。

(――あたしを憎みなさい、王妃イレイン!)

 殺気の込められた視線に気付かないふりをして、アナベルは口元に手を添えて眉を下げた。

「――申し訳ございません、王妃陛下。エルヴィス陛下は、先日までの魔物討伐で気が昂っているようですわ」
「……そうだな。魔物討伐もそうだが、以前宮殿に住んでいた寵姫(ちょうき)たちが亡き者になったことで、少しまいっているのかもしれない。――ベル、きみも同じようになるのではないかと思うと、私は本当に怖いのだよ……」

 エルヴィスはガラス細工に触れるように優しく、アナベルの頬に手を添える。彼女は彼を見上げて、ふわり、と微笑んだ。

「大丈夫ですわ、陛下。わたくし、悪運には自信がありますの」

 自信満々に胸を張るアナベルに、周りの貴族たちは「悪運?」と首をかしげる。

「実はわたくし……五歳の頃に貴族に買われましたの。その貴族のもとに行く馬車が魔物に襲われて……崖から落ちたのです。ですが、この通り生き残りましたの。……それで、村に帰ろうと思って森をさまよい……村についたときにはすでに……」

 うるっと目に涙をためて、顔をうつむかせるアナベルに、イレインは十五年前のことを思い出した。
< 121 / 255 >

この作品をシェア

pagetop