【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
(――あのときの小娘か!)

 エルヴィスとともに視察に行った村で、目を引いた少女。

 イレインはそのことに気付き、ぐっと拳を握った。

「しかし本当、エルヴィスのおかげ(・・・)で国が平和になったよなぁ」

 ダヴィドが飲み物を手にして、すっとイレインとアナベルに差し出す。

 イレインはすぐにそれを受け取り、アナベルはちらりとエルヴィスを見上げる。彼はそっと彼女の目尻の涙を(ぬぐ)い、うなずいた。その姿を確認してから、彼女は手を伸ばして飲み物を受け取った。

「これは?」
「カクテル。なんといっても、美女がこんなにいるんだ。目の保養、目の保養」

 ダヴィドの軽い口調に、アナベルはくすくすと可憐(かれん)な笑い声を上げる。

 イレインは呆れたように肩をすくめて、こくりとカクテルを一口飲んだ。

「……申し訳ございませんが、(わたくし)、少し気分が(すぐ)れませんのでこれで失礼いたします。アナベル、と言ったわね? 精一杯、エルヴィス陛下を支えるのですよ」

 手にしたカクテルを飲み干して、空になったグラスを近くの女性に押し付けるように渡すと、イレインはふらりと歩き出す。

「王妃陛下、お供いたします!」

 護衛の騎士たちが彼女に続き、会場から出ていくのを見送った。

 ――紹介の儀から、たった一時間ほどしか経っていない。
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