【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 残された貴族たちは困惑したようにざわついたが、エルヴィスが視線を巡らせるとびくりと身体を硬直させた。

「王妃陛下、気分が優れないとおっしゃっていましたが、カクテルを飲んで平気だったでしょうか?」

 心配そうにつぶやくアナベルに、ダヴィドはくくっと喉を鳴らして笑う。

「ドライマティーニは、度数が高かったかね?」
「さぁ。彼女がどんな酒を好んでいるのか知らないから、なんとも言えんな」
「あら、エルヴィス陛下、知りませんの?」

 意外そうにアナベルが目を丸くする。エルヴィスはこくりと首を振った。

「彼女と食事を()ることも、夜をともにすることも、数えるくらいしかないからな」

 どこか寂しそうに目を伏せるエルヴィスに、周りの貴族たちはひそひそと言葉を()わす。

 彼がこんなふうに夫婦関係のことを口にすることなんて、今まで一度もなかったからだ。

「――それは、寂しかったでしょう……?」

 優しく、柔らかく……アナベルが(いつく)しむような声を出す。

 誰の耳にも、エルヴィスを(あわ)れんでいるように聞こえるだろう。

 こつん、とアナベルの額に自分の額を重ね、「――今はきみがいてくれるだろう?」と甘えるような声を出すエルヴィスに、アナベルはにこっと微笑んだ。

「はい、陛下。あなたのアナベルですもの」

 甘く、とろけそうな声。

 二人の世界、とばかりに人目(ひとめ)もはばからず見つめ合うアナベルとエルヴィス。

 こほん、とダヴィドが咳払いをしたことで、ようやくここがどこかを思い出したかのように、少し離れた。
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