【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 孤児であれば、孤児院の大人たちに。

 だからこそ、この国の人たちは魔法を当たり前のように使っている。

 しかし、エルヴィスの使う『氷の魔法』だけは扱いが違う。

 王族――それも適性のある者にしか扱えない。さらに、扱えるようになるには『覚醒(かくせい)』が起きなければならない。

 エルヴィスがその力に目覚めたのは、十五歳のときだった。

「……王族の方はてっきり、氷の魔法しか使えないかと思っていましたわ……」

 ぱちくり。

 目を丸くするコラリーに、エルヴィスは「なぜ?」と不思議そうに首をかしげる。

「……エルヴィス陛下とお話しする機会が、少ないからではありませんか?」

 アナベルが頬に人差し指を添えてエルヴィスを見上げる。彼は意外そうに目を見開いた。

 コラリーは、「確かに陛下とお話しする機会はありませんね」と納得したようにつぶやく。

 十五歳で覚醒したエルヴィスは、魔物討伐に赴くことが多く、こうして貴族たちが集まる場所に顔を出すことは滅多になかった。

「今までの紹介の儀でもそうだったろ?」
「……そう、だったか……?」

 ダヴィドに言われて、眉間に皺を刻んで考え込むエルヴィス。

「――……確かに、そうだったかもしれない……」

 はぁ、と小さく息を吐いたエルヴィスに、アナベルはそっと寄り添った。

「でしたら、陛下。アナベルのわがままをお聞きください」

 アナベルは、愛らしく笑った。
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