【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

紹介の儀 5話

 すっとエルヴィスがアナベルの手首を掴む。

 顔を上げると、彼が愛しそうにアナベルを見つめていた。

 ドキリ、と自分の胸が高鳴ったことに、アナベルは眉を下げる。

「どうしました? エルヴィス殿下」
「舞踏会を開くのならば、きみのドレスも新調しないといけないな」
「あら、エルヴィス陛下のお召し物も必要になりますわよ? そうだ! せっかくですし、お揃いの色にしませんか?」

 キラキラと目を輝かせ、声を弾ませるアナベルに周囲の人たちがどよめいた。

 ――揃いの色を身につける――それが許されるのは、王妃だけのはずだった。

「ああ、ベルが望むようにしよう」

 エルヴィスのその発言に、周囲はさらに戸惑う。

「楽しみですわぁ」

 きゃっきゃとはしゃぐアナベルに、そういえば、とばかりにコラリーが声をかける。

「……あの、アナベルさまはアンリオ、と名乗っていましたよね。アンリオ侯爵家と養子縁組をなさったと……。寵姫(ちょうき)は普通、夫人がなるものでしょう? どなたかと婚姻を……?」

 アナベルはその質問を待っていた。

 薄く微笑みを浮かべると、ゆるりと頭を横に振る。

「――いいえ、わたくしは誰とも婚姻を結んでおりません」

 会場内が一気にざわめいた。信じられないものを見るかのように、アナベルとエルヴィスに視線が集まった。
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