【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 アナベルにつくか、イレインにつくか、どちらについたほうが得かを計算しているのだろう。

 ダヴィドはそんな貴族たちを見て、内心で細く笑う。

(――上出来だ)

 アナベルの美しさ、無邪気さ。さらにエルヴィスが彼女を愛していると周りに見せつけること。

 求めていたすべてを、アナベルとエルヴィスはこの紹介の儀で演じてみせた。

(――はたしてどこまで演技だったのか。……それは彼らのみが知る、だな)

 ダヴィドは小さく口角を上げ、会場内に残っている貴族たちの声を聞いていた――……

 一方その頃、アナベルとエルヴィスは馬車に乗り込み、彼女が住んでいる宮殿へ向かっている途中だった。

 会場から少し離れた場所で、アナベルはようやく終わったとばかりに深く息を吐く。

「疲れたか?」
「そりゃあねぇ。あんなに猫を被ったことなんてないってくらい、猫被ったよ……」

 肩に手を置いてぐるぐると回している姿を見て、エルヴィスがくすりと笑った。

「ご苦労だった。カルメ伯爵夫人のおかげで、どこからどう見ても『令嬢』だったよ」
「それはどうも。もうあんだけ猫を被るのはごめんだよ……」

 心底疲れたのか、アナベルがくったりとした様子で肩をすくめた。
< 136 / 255 >

この作品をシェア

pagetop