【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

紹介の儀 その後 1話

 そこからは沈黙が続いた。

 アナベルも、エルヴィスもなにも話さない。

 ただ、紹介の儀をやり終えたことの安堵感が(まさ)っていた。

 宮殿まで送られ、御者が馬車の扉を開く。

 アナベルが降りる前に、エルヴィスが先に降りて彼女に手を差し伸べた。彼女は彼の手を取り、ゆっくりと馬車を降りる。

「ご苦労だった」

 御者の手に小袋を乗せると、彼はバッと顔を上げてエルヴィスを見た。

「確か、きみのところには病に伏せている母君がいただろう。それで薬を買いなさい」
「……! ありがとうございます、本当に、ありがとうございます……!」

 御者は何度も頭を下げる。その光景を見たアナベルは「ふぅん」とつぶやく。

 もともとここにいた人を御者にするのではなく、外注したのはなぜなのかと考えていたからだ。そして、その理由を知って、ニッと口角を上げる。

(――よく知っているのね、民のことを)

 御者は大切そうに小袋を抱いて、もう一度頭を下げて去っていった。

 宮殿内に入ると、執事とメイドたちが出迎えてくれ、アナベルとエルヴィスを交互に見る。

「お帰りなさいませ。お疲れでしょう? お風呂の準備、できておりますよ」
「本当? それは嬉しいわ。……あれ、カルメ伯爵夫人は?」
「……?」

 意外そうに目を丸くするアナベルに、執事が微笑ましそうに目元を細めて、こっそりと教えてくれた。

「――一ヶ月もこの宮殿で過ごしていたので、旦那様が恋しくなったようですよ」
「まあ、それは……お熱い(・・・)のね」
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