【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ひそひそと話すアナベルと執事を眺め、首をかしげるエルヴィス。

 彼にも「お風呂の準備ができていますよ」とメイドが声をかけた。

 二人は別々のお風呂に入り、今日の疲れをゆっくりと癒す。

 アナベルはメイドに、一つお願いしてみた。彼女はそのお願いを聞いて、ぱぁっと表情を明るくして、「お任せください」と張り切って声を弾ませた。

 それからたっぷりと時間を使ってお風呂を堪能したあとに、エルヴィスのもとに向かう。

 しっかりと温かな格好をしているが、夜はやはり冷える。

 彼の部屋の前に何度か深呼吸を繰り返し、いざノックをしようとした瞬間、ガチャリと扉が開いた。

「――人の気配がすると思ったら、きみだったのか」

 それは柔らかく、甘く、ささやくような声だった――……

「えっと、その、ワインとつまみを持ってきたのだけど、一緒にどうかしら?」
「――良いのか、一緒(・・)で?」

 (うかが)うようにアナベルを見るエルヴィス。

 こくり、とアナベルが小さくうなずくのを見て、「おいで」と部屋に招き入れた。

 実は、エルヴィスの寝室に入るのは初めてのことだった。

 カルメ伯爵夫人により、徹底的にマナーを叩きこまれていたアナベルは、マナー講座が終わると同時に力尽きたように眠ることも多く、エルヴィスと寝室を別々にされていた。
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