【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 だから、今日、初めて彼の寝室に入る。

 物珍しそうに辺りを見渡すアナベルに、エルヴィスが「なにか興味あるものはあったかい?」と(たず)ねた。

「あ、ううん……なんというか、その……殺風景ね。もっとこう、ゴージャスなイメージがあったから、驚いちゃった」

 華美(かび)に飾り付けられていることを想像していたが、まったくの正反対で拍子抜けしてしまい、軽く頬をかくアナベル。

 ワインとつまみの入ったバスケットをローテーブルの上に置いて、ソファに座った。

 エルヴィスがワインを手に取り「ほう、良いワインだな」とラベルを眺めてつぶやき、コルクを抜いた。バスケットの中に用意されたワイングラスを取り出し、トクトクと注ぐ。

 すっと差し出されたワイングラスを受け取り、視線を上げるとエルヴィスがアナベルの隣に座った。

「必要最低限のものがあれば暮らしていけるからな。……さて、なにに乾杯しようか?」
「無事に紹介の儀を終えたことについて――かしら?」

 くすり、とアナベルが口元に弧を(えが)く。エルヴィスは小さくうなずき、「それじゃあ」と言葉を紡ぎ、

「――紹介の儀を無事に終え、貴族たちの関心を向けられたことに」
「乾杯」

 二人の声が綺麗に重なる。

 すっとワイングラスを軽く持ち上げて乾杯すると、グラスに口をつけてこくりと飲んだ。
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