【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

踊り子 アナベル 4話

 村は焼かれていた。焼かれてから、どのくらいの時間が経っていたのかはわからない。

 だが、村の人たちが一生懸命に育てていた作物もみんなが暮らしていた家も、真っ黒ななにかへと変貌(へんぼう)()げていた。

「うそ、うそだよね……?」

 あの騎士は、確かに言っていた。アナベルの身と村が引き換えられることを。

 ……だが、アナベルがあの馬車に乗って、ジョエルのもとに向かっても村は焼かれた。

「……っ!」

 アナベルは自宅へと駆け出す。――しかし、そこもすべて焼かれてなに一つ残ってはいなかった。立ち尽くした彼女は、そのままそこに座り込んで、大声で泣きじゃくる。

 どうして、誰が、なんのためにこの村を襲ったのか。

 ――アナベルの心に、一つの火が灯る。

(――絶対に、許さない……!)

 村を、村人たちを、家族を、こんなふうにした者を――……!

 幼いアナベルにとって、こんなにどす黒い感情を(いだ)くのは初めてのことだった。それでも、ぎゅっと胸元を掴んで、家族に誓う。

「――必ず、見つけるから――……」

 こんなことになった理由を――……

 彼女は立ち上がり、乱暴に腕で涙を(ぬぐ)い、歩き出す。

 村がこんなことになった理由を見つけるために。

 アナベルのアメシストの瞳には、復讐の炎が宿っていた。

 しかし、村を出て歩き続けていたが、体力に限界がきたようだ。

 それもそうだ。これまで飲まず食わずで走ったり、歩いたりしていたのだから。

 くらりとめまいがして、その場に倒れ込んだアナベルはそのまま意識を失ってしまった。
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