【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……さすが、美味しいワインだわ」

 自分が今まで飲んでいたワインとは、まるで違う。

 甘さは思っていたよりも控えめだったが、しっかりとしたブドウの酸味も加わり、さらに渋みまでもがちょうど良いバランスで整えられていた。

「……ここのワインは、私が一番よく飲んでいるワインだ。酒が甘いのはあまり好みではなくてね。気に入ってくれたのなら、よかった」
「とても美味しいわ。あたしが今まで飲んでいたのは、甘ったるいかものすごく渋いかの二択だったもの」

 くすくすと笑うアナベルに、エルヴィスの表情も(ほころ)ぶ。

「さらに言えば、王妃イレインの歪んだ顔を思い出すだけで、ワインがすすむむわぁ」

 ――悔しそうに歪んだ表情。それを見逃すアナベルではなかった。

 カクテルを飲み干して、気分が悪くなった――なんて。

「戦えそうか?」
「ええ、まあ。王妃サマは本当に『自分が中心』の世界にしかいたことがないみたいだから、ちょっといろいろしようかな―……なんて、考えているわ」
「いろいろ?」
「――寵姫(ちょうき)が自分のためではなく、民のためにお金を使ったら、どう思うかしらね?」

 きらり、とアナベルの目が輝く。

 そのことに気付いたエルヴィスは、ふっと笑みを浮かべて、くしゃりと彼女の頭を撫でた。
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