【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

紹介の儀 その後 3話

 その日はとても、とても丁寧にメイドたちが接してきて、アナベルはエルヴィスの寝室からなかなか出られなかった。

 ……歩こうとすると腰が抜ける、という感覚だったのもある。

「……ねえ、少し質問をしてもいいかしら?」

 せっせと自分を世話するメイドの一人を呼び止めた。

「はい、アナベルさま」

 宮殿に住まう寵姫(ちょうき)は、現在アナベルだけ。

 だからこそ、これだけは聞かなくてはいけない、と口を開く。

「前の寵姫たちは、どんなことをしていたの?」

 彼女の問いに、メイドは目を丸くした。そして、他のメイドたちに目配せをした。

 ベッドにうつ伏せしているアナベルの傍に向かい、近くに座り込む。

「……どんなことを知りたいですか?」

 アナベルは少し考え込んだ。『どんなこと』と聞かれて、ハッとしたように顔を上げてこう(たず)ねた。

「彼女たちが力を入れていたことは、なにかしら?」
「力を入れていた、こと……ですか。そうですね……」

 メイドたちはそれぞれ考えを巡らせて、アナベルに答える。

「着飾ること……?」
「宝石を集めていた方もいらっしゃいました」
「音楽に力を注いでいる方も……」
「……みんな、それぞれしっかりと趣味はあったのね……」

 実家から冷遇されていた女性たちの楽園。アナベルは宮殿に暮らしていた寵姫のことを思う。

(やっぱり貴族の世界って、よくわからないわ。でも、あたしはあたしらしく、やるしかないわよね)
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