【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 平民であった自分だけが、見つけられることもあるだろう。

 そう考え、アナベルは優しく微笑む。

「ありがとう。あたし、いろんなことをがんばるね」

「……アナベルさま。どうか、無理はなさらないでくださいませ。エルヴィス陛下の寿命が短くなってしまいますわ」

 メイドの言葉に、アナベルは思わずくすっと笑い声をもらす。すると、少し怒ったように目をつり上げた。

「本当ですよ。アナベルさまは、エルヴィス陛下が唯一愛した女性なのですから!」

 きっぱりと言い切るメイドに、アナベルは首をかしげる。

「唯一……?」
「はい。王妃陛下との結婚は、当時の大臣たちが決めたことですから、彼らのあいだに『愛』はありませんでした。……それは今も、でしょうじょうけれど……」

 困ったように眉を下げるメイドたち。アナベルはゆっくりと身体を起こす。

「……前に、陛下に聞いたわ。王と王妃の関係はビジネスパートナーだって」

 こくり、と年長のメイドがうなずいた。

 そっとアナベルの肩にケープを羽織らせながら、言葉を紡ぐ。

「エルヴィス陛下のご両親が亡くなってから、城は様々な混乱に(おちい)りました……」

 悲しそうに目を伏せるメイドに、自分の手を重ねた。
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