【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「両親を一気に失ったのです。陛下のことを支える人が必要になり、公爵家のイレインさまが選ばれました。……いえ、違いますね。イレインさまを王妃にしたい人たちによって、彼女はエルヴィス陛下と結ばれることになったのです」

 淡々とした口調で語る年長のメイドは、ハッとしたように顔を上げて「申し訳ありません」と苦虫を噛み潰したような顔で謝罪の言葉を口にした。

「……なぜ、謝るの?」
「聞かれてもいないことを、話してしまいました」
「そんなこと、良いのよ。……ねえ、それともう一つ聞きたいことがあるの。あたしみたいな平民が寵姫になるなんて、珍しいことでしょう? しかも未婚で。そんな人に、こんなふうに仕えるのって、いやじゃない……?」

 ――一ヶ月。

 紹介の儀までにかかった時間だ。

 カルメ伯爵夫人から徹底的に教わっていたとはいえ、本来自分の身分は彼女たちよりも低いこと、そしてそんな自分が寵姫となり、宮殿内でこうして暮らしていることに複雑な思いをしているのではないかと、おそるおそる尋ねる。

 アナベルの様子に、メイドたちはふふっと柔らかく微笑んだ。

「寵姫たちが全員亡くなってから、この宮殿はとても寂しくて……。ですが、エルヴィス陛下が自ら新しく寵姫を迎えることになると聞き、私たちはとても嬉しくなりました」

 アナベルの近くにメイドたちが集まり、年長のメイドの言うことに何度もうなずく。

「ここは私たちにとって、とても良い職場なので離れがたくて……。ですが、主の居ない宮殿ですから、王妃陛下に『別の職場を探したほうが良いのではなくて? なんでしたら私が紹介しましょうか?』なんて言われて、渡されたのは娼館の求人でしたよ!」
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