【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 どのくらい意識を失っていたのか、目が覚めると周りには見慣れない人たちが、彼女を囲んでいた。

「あ、目が覚めたみたい。座長! 女の子、目が覚めましたよ!」

 もこもこの毛皮に包まれた女性が、ぱぁっと表情を明るくしてアナベルの顔を覗き込み、誰かを呼ぶ。

 座長と呼ばれたのは中年くらいの男性で、その人はアナベルが目覚めたことの報告を受けると、歩くのを中断して彼女のもとへ足を運んだ。

「お嬢ちゃん、大丈夫かい? 森の中で倒れていたのを拾ったんだが……。もしかして、焼かれていたあの村の生き残り?」

 座長の問いに、アナベルはどう答えれば良いのか迷った。カタカタと震えているのを見た女性が、自分の毛皮のコートを脱いで、アナベルを包み込む。

「あ、ありがとうございます……」
「ごめんねぇ、寒かったわよねぇ」

 お礼を伝えてから、座長をじっと見る。彼もアナベルを見つめている。困り果てた彼女は眉を下げて、助けを求めるように毛皮のコートで包み込んでくれた女性を見上げた。

「ちょっと座長! こーんなに小さくてかわいい子に圧をかけないでくださいよ! 怖かったよねぇ? この人、クマみたいな見た目だけど、悪い人じゃないのよ。えーっと、とりあえず、お名前を教えてくれないかな? なんて呼べば良い?」

 バシンっと勢いよく座長の背中を叩く女性に、「なにすんだよっ」と怒る彼。

 女性はじろりと睨みつけてから、フォローを入れるようにアナベルに向けて笑顔を浮かべて、明るい口調で話しかけてきた。

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