【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「そういえば、アナベルさまはどこで字を習ったのですか?」
「ミシェルさんたちが教えてくれたの。文字が読めるのと書けるのでは世界が違うのよって」

 当時を思い出して、アナベルの心がほんのりと温かくなった。

 ミシェルとの大切な思い出だ。

「アナベルさまは本当に、ミシェルさまがお好きなのですね」

 目元を細めてはにかむメイドたちに、アナベルは照れたように頬をピンク色に染めて、肯定のうなずきを返す。

「ミシェルさんは、あたしの剣舞の師匠でもあったし……いろんなことを教えてくれた恩人なの。あたしを娘のように可愛がってくれて……」

 ――最期まで、アナベルのことを気にかけていたミシェルのことを思い出し、口を閉じた。

 アナベルにとってミシェルは、一番尊敬できる人であり、姉であり、母だった。

「……王妃サマは、いったいどれだけの人を不幸にしてきたのかしらね……」

 ミシェルのことを思い出し、止めていた手を動かす。

「――終わらせなくちゃいけないわ」

 顔を上げて、意志の固い……力強いまなざしをメイドたちに向けるアナベル。

 そのまなざしに、メイドたちは射抜(いぬ)かれたように息を()む。

「……はい、アナベルさま。終わらせましょう」

 年長のメイドの言葉に続き、メイドたちはうなずいた。

「――そして、始めましょう。脅威(きょうい)のない暮らしを」
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