【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

紹介の儀 その後 5話

 そして、その日の夜。エルヴィスがアナベルのもとへ帰ってきた。

「お帰りなさい、エルヴィス陛下」
「ただいま。身体は大丈夫か?」
「はい、ゆっくり休んだらすっかりと」

 頬に手を添え、顔を赤らめるアナベルに「そうか」と微笑み、服を脱ぎ始めるエルヴィス。

 アナベルはぱっと視線をそらした。

 背中を向けている彼が笑う気配がしたが、アナベルは彼の背中にある傷痕(きずあと)に気付いてハッと顔を上げる。

 エルヴィスに近付くアナベルに、彼は「どうした?」と声をかけた。

「……エルヴィス陛下、この傷痕は……」

 背中に残る傷痕に、エルヴィスが「ああ」と納得したようにつぶやく。

「魔物討伐のときに、部下を庇ってできた傷だ。治癒(ちゆ)魔法もかけなかったから、残ったのだろう」
「……どうして」
「治癒魔法師がいなかったから……だな。さすがにポーションだけでは治りきらなかった」

 アナベルは下唇をかみしめる。

 ――治癒魔法師もいなく、回復薬であるポーションだけを持って戦っているエルヴィスの姿を想像して、涙が込み上げてきた。

(どんなにつらい戦いだったろう)

 なぜエルヴィスがそんな目に()わなくてはいけなかったのか、と。

 だが、彼らが魔物を討伐してくれたおかげで、各地を巡る旅は順調だったのだ、とも考えて複雑な心境になった。

 そんな彼女の心境を知ってか知らずか、エルヴィスは懐かしむように目元を細める。

「懐かしいな、この傷はまだ十五歳くらいのときだったか……」
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