【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 エルヴィスの言葉に、アナベルが顔を上げる。十五歳といえば、まだまだ子どもの頃ではないかと思い、ぎゅっと拳を握った。

「確か覚醒(かくせい)してすぐだったからな。氷の魔法をうまく制御できずにいた。だが、魔物を討伐していくうちに大分慣れてきたんだ」

 ばさり、とエルヴィスが服を脱ぎ捨て、代わりに寝間着に袖を通す。

 くるりとアナベルに身体を向けると、そっと彼女の頬に手を添えた。

「ああ、こんなに瞳を潤ませて。そんなに私は()()()に見えるか?」

 アナベルはじっとエルヴィスを見つめて、緩やかに首を横に振る。

「ちがう、違うの……」

 アナベルの口から、震えた声が滑り落ちた。

「あたし、エルヴィス陛下たちが魔物を討伐しているとき、なにもできなかった。そのことが、やっぱり悔しいの……」

 当たり前のように魔物を討伐していたエルヴィス。

 自分たちはその恩恵を受けながらも、彼になにも返せていない。

 そのことが、アナベルは悔しかった。

 彼女の言葉はエルヴィスにはとても意外だったようで、その意味を理解すると破顔した。

 アナベルの腕を引っ張り、自分の腕の中に閉じ込めると、彼女は「エルヴィス陛下!?」と慌てたように声を上げる。

「愛おしい、というのはこういうときに使うのだろうな……」

 ぽつりとこぼれた言葉を耳にして、アナベルは顔を一気に真っ赤にさせた。

 それを隠すようにエルヴィスの胸元に額をつけるが、耳まで真っ赤になっているので隠れてはいなかった。
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