【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「きみはパトリックたちのことを初心(うぶ)だと言っていたが、きみ自身も充分に初心だと思うよ」
「そうね、あたしもびっくりよ。――好きな人が相手だと、全然違うのだもの」

 顔を隠すのは諦めたらしいアナベルが、両肩を上げた。エルヴィスは抱きしめていた腕を緩め、代わりに彼女の頬に手を添える。

「そんな表情(かお)で見ないで。可愛く見えちゃう」
「私はいったい、どんな表情をしているんだい?」

 小さく口角を上げるエルヴィスに、アナベルが彼の目をじっと見つめた。

 彼女の瞳に映る自分の表情を見て、「ベルはこの表情(かお)が可愛いと?」と首をかしげる。

「ええ、そうよ。あたしのことを好きでたまらないって感じが、可愛いわ」

 クスリ、と口角を上げ、自分でも意図せず甘い声が出たアナベルは、エルヴィスの胸元に手を置いた。

 彼の体温が寝間着越しに伝わり、ドキドキと胸が高鳴る。

「……ベル」

 すっとエルヴィスがアナベルの頬から顎へ指を移動させ、くいっと上を向かせる。真剣な表情のエルヴィスに魅入られるように、自然とまぶたを閉じた。

 ちゅっ、と軽い音を響かせて、唇が重なる。

「……不思議だわぁ……」

 唇が離れると、アナベルが自分の唇に指の腹を押し付ける。「不思議?」とエルヴィスが問う。

「昨日もたくさんキスをしたのに、今日もしたくなっちゃうなんて」

 本当に不思議だわ、とアナベルがつぶやくと、エルヴィスは彼女の肩に自分の額を押し当てた。
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