【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「大丈夫ですよ、そんなに気を張らなくても。ほら、肩に力が入ってる」
「――難しいわぁ……!」

 パトリックに指摘されたことを意識すると、余計肩に力が入る。

 カァン! と乾いた音が響いて、アナベルは剣を落とした。

「……今日も動かせなかったわ……!」

 悔しそうに拳を握るアナベルに、パトリックが眉を下げる。

「これまでもかなり手加減していますからね。アナベルさんが『戦うための剣』に慣れるまで、動きはありませんよ」
「……? それはどういうこと?」

 アナベルが剣を拾ってから、パトリックに問いかけた。

「アナベルさんの剣は、戦うためではなく、自らを輝かせるための動きですから……。自分の魅力を最大限に活かしているというか……」

 しどろもどろになりながらも、彼は答えをくれた。それを聞いて、アナベルは「うーん」と考えを巡らせる。

(剣舞の癖が出ているってことかしら?)

「あ、それとアナベルさま。敬語が抜けたので、カルメ伯爵夫人の宿題倍増です」

 メイドに伝えられた言葉に、アナベルはその場に座り込んでがっくりと肩を落とす。

 カルメ伯爵夫人は、彼女を徹底的に『貴族の令嬢』、そしてエルヴィスに似合う『寵姫』としての勉強をさせていた。

 剣術を習いたいというのはアナベルの強い願いで、そのことに関しカルメ伯爵夫人はあまり(こころよ)く思っていなかったようだが、すぐに考えを改めたようだ。
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