【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「乳母とナーサリーメイドに育てられていますよ、大切に。ただ……陛下の子ではないと思います」
「ええ? じゃあ、誰の子?」
「わかりません。王妃陛下はいろんな人たちを王妃宮に呼んでいるそうなので……」

 なぜ呼んでいるのかを察したアナベルは、いやそうに眉を寄せる。

「……陛下はどうして放置しているのかしら?」
「放置というか、興味がないというか。よく言うでしょう、好きの反対は無関心だって。そんな感じです。それに、王妃陛下が好き勝手にしているのは、今に始まった問題ではありませんし……」

 それもそれでどうなのだろうか、とアナベルは重くため息を吐く。

 そもそも、最初から間違っていたのだろう。

「――生まれは選べないけれど、こうも間違った方向性を見せつけられると、逆に清々しいわね」

 貴族として生まれ育ったイレインに、王族として国を背負うことが決定づけられたエルヴィス。

 彼らのあいだには、きっといろいろな思惑が飛び()い、訂正されることなくここまで来てしまったのだろう。

(……あたしがエルヴィス陛下にできること……)

 彼を支えて、ともに戦う。せめて、自分といるときだけでも、彼が少しでも安らげば良い。

 ――アナベルはそっと、自分の胸元に手を当てて、目を閉じた。
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