【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 きっぱりと言い切った。

 ここは人里離れた山の中ではないし、山賊や盗賊に()うこともないだろう。

 国中を旅していたときは、たまにそんな人たちも遭ったが、大体は退けていた。

 護衛を雇っていたし、旅芸人の一座にはそれなりに戦える人もいたからだ。魔物とはなるべく戦わないようにしていたが、対人戦は()けられないときもあった。

「……王都って平和ですのねぇ……」
「平和になったんですよ、エルヴィス陛下が尽力したおかげで。ですがまだ、我々の把握できていないところでは、なにが起きているかわかったもんじゃありませんけどね……」

 アナベルが馬車に乗ると、パトリックは馬に乗った。どうやら馬車には乗らないらしい。

「それでは、本日は私が寵姫、アナベルさまの護衛を担当します。よろしくお願いいたします」

 馬に乗ったにこやかにそう言うパトリックに、アナベルは大きくうなずいた。

 馬車の扉が閉められて、御者が馬に合図を送り、走り出す。

 それと同時にパトリックも馬に合図を出して、並走した。

 アナベルはぼんやりと流れる景色を眺める。

(あたし以外にも、孤児ってたくさんいるよね……?)

 旅芸人の一座に拾われて、アナベルはミシェルやクレマンたちにいろいろなことを教わった。

 文字の書き方、魔法の使い方、剣舞……数えきれないほど、たくさんのことを。

(ねえ、ミシェルさん。あたし――好きな人が、できたよ)

 心の中でそうつぶやいて、アナベルはポッと頬を赤らめた。
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