【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「ようこそ、ミレー孤児院へ。寵姫アナベルさまのご来訪を、心より歓迎いたします」
「ミレー夫人はカルメ伯爵人の伯母なんですよ」
「まぁ、そうでしたの。カルメ伯爵夫人には、いつもお世話になっております」

 カルメ伯爵夫人の親戚に会うとは思っていなかったので、アナベルは心底驚いた。だが、それを顔に出さず、顎の近くで指を合わせて柔らかく口角を上げる。

 そして、ふと彼女が気になることを口にしていたことを思い出した。

「あの、号外の新聞とは……?」
「エルヴィス陛下が自ら寵姫を迎えられた、と。その女性はとても美しいと書かれておりましたの」

 見せましょうか? と(たず)ねられ、アナベルは丁重に断った。

「では、こちらへどうぞ」

 ミレー夫人に案内されて、孤児院の中に入る。

 お茶を()れてもらい、「どうぞ」と勧められたので、こくりと一口飲んだ。

「……それで、どうして寵姫がこのような場所へ?」

 怪訝(けげん)そうなミレー夫人に、アナベルはちらりとパトリックを見る。

 彼は小さくうなずいた。――この人は信用しても大丈夫、というように。

「実はわたくし、慈善活動をしたいのです」
「……え?」

 その言葉が意外だったのか、ミレー夫人は目を大きく見開いた。

「……わたくし、孤児だったのです。住んでいた村が焼かれて……家族も、村人たちも全員……」

 話しているうちに涙が込み上げそうになった。ハンカチを取り出すと、そっと目元を拭う。

「――孤児になったわたくしですが、幸いにもクレマン座長が率いる旅芸人の一座に拾われました。そこで、様々なことを学びました」
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