【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 生きる(すべ)のほとんどは、そこで学んだと言っても過言ではない。

「……わたくしは、すべての人にその力を得てほしいと、考えております」

 真摯(しんし)なまなざしでミレー夫人を見つめるアナベルに、彼女は息を()んだ。

「それが、貴女(あなた)の『寵姫としての在り方』ですか?」

 こくり、とアナベルがうなずく。

「エルヴィス陛下には、絶対的な味方が一人でも多く必要です。わたくしは、彼の宿り木になりたい。わたくしのもとで、少しでも安らいでもらいたい。……それは、寵姫ではなく、個人の考えでもあるのですが……」

 彼に抱かれて、自分の想いをハッキリと理解した。

 彼の苦悩を少しでも分け与えてほしい、と。

 エルヴィスを取り巻く環境はあまりにも寂しく、厳しく、自分の腕の中で彼を温めてあげたい。

 これを、愛と呼ばずになんというのか。

 アナベルは笑う。(はかな)く、美しく、彼を焦がれるように。

 その笑みを見て、ミレー夫人はアナベルがエルヴィスのことを心から愛しているのだと悟った。

 そして彼女もまた、エルヴィスに愛されているのだ、と。

「……エルヴィス陛下は、本当に愛する人を見つけたのですね……」

 しっとりとした口調で、それでも嬉しそうに微笑むミレー夫人に、アナベルは首をかしげた。

「では、アナベルさま。貴女は孤児院で、なにをどう教えるつもりなのですか?」
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