【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……まずは、文字の読み書きを。それをマスターしたら、魔法の使い方、と徐々に段階を踏んでいきたいのです。子どもたちの考え方は十何でしょう? 今日のあることに関しての飲み込みは、きっと早いと思います」
「……誰が、教えるのですか?」
「お許しをいただけるのならば、わたくしが直接。魔法の使い方に関しては、わたくしよりも適任者がいるでしょうけれど……見つかるまでは」

 アナベルの提案に、ミレー夫人は驚嘆(きょうたん)のまなざしを彼女に向ける。

 ミレー夫人は悩むように視線を落とす。ふと、アナベルの手が緊張からか震えていることが視界に入った。

(――どうして、そこまでするのかしら?)

 視線を彼女の手から顔へ移動させる。意志の強そうな瞳を見つめ、口を開く。

「なぜ、貴女がそこまでするのですか?」
「……子どもたちの未来を、守りたいから」

 旅芸人の一座で旅をしていた頃、いろいろな人が一座に入り、抜けていった。

 なかには、アナベルと同じように孤児だった人もいた。その人は読み書きもろくに出来ず、かなり低い値段で娼館に売り飛ばされそうになったところを、クレマンが助けて一座に加わった。

 彼女はそれから読み書きを学び、踊り子たちをサポートする衣装係として働いていたが、その裁縫の腕が目を引き、とある町の裁縫店にスカウトされ――クレマンから『自分の人生なんだから、自分で選べ』と彼女に選択肢を与えた結果、地に足のついた生活をしてみたかったと裁縫店で働くことを決めた。きっと今日も元気に働いているだろう。
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