【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「なんせ、エルヴィス陛下が本気で恋に落ちた女性ですからね。できるだけ危険には近付けさせたくないというのが本音です」
「エルヴィス陛下のお心ですか?」
「いいえ、私の勝手な判断です」

 それを聞いて、アナベルはふふっと笑った。彼の気遣いが、とても嬉しかったから。

「大丈夫ですわ、パトリック卿。わたくし、エルヴィス陛下とともに戦うために、ここにいるのですもの」

 自分の胸元に手を置いて微笑むアナベルの姿を、パトリックはまぶしそうに目元を細めて眺めていた。

 そして、二人は最後に娼館へ足を運んだ。

 娼館に行きたい、と伝えたときのパトリックの顔には困惑が隠しきれていなかった。

『アナベルさまがそんなところに行かなくても……』

 と、弱々しく言葉を紡いでいたが、アナベルは『どうしても行きたいの!』と押し切ることに成功し、王都で一番知られている娼館の前に立っている。

 パトリックは、落ち着かないのかソワソワしながら辺りを見渡していた。

「ごきげんよう、マドモアゼル!」

 アナベルは扉を大きく開いて、娼館に響くように大声を発する。

 娼婦たちはびっくりしたように肩を揺らした。

「なんだい、いったい……。こんなところで大声を出さないでおくれ……って、おや? ずいぶんとかわいい子が訪ねてきたもんだ」

 奥から娼館のオーナーらしき人物が姿を現した。アナベルに気付くと、じろじろとその姿を頭のてっぺんから足のつま先まで見て、ふんっと笑う。

 煙管(キセル)を咥えて吸うと、ゆっくりと息を吐いて煙を出す。

「ごきげんよう、あなたがここのオーナーかしら?」

 アナベルはその煙を払うように扇子を取り出し、広げた。

 軽く扇いでから口元を隠すように、扇子で(おお)う。
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