【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「それじゃあ……あなたから、ロクサーヌ、イネス、カミーユと名付けるわ」

 アナベルが淡々と娼婦たちの偽名をつけると、彼女たちはうなずく。

「まだ準備が必要だから、その準備が終わり次第、声をかけますわね」
「……わかりました」

 ロクサーヌ、と名付けられた女性が神妙に首を縦に動かした。

 アナベルはソファから立ち上がり、パトリックに視線を向ける。

 彼はまだ視線をどこに向ければよいのか、困っていたようだった。

(本当に初心(うぶ)な方よねぇ……)

 女性と接することがあまりなかったのだろうか、と考えながらアナベルは「行きましょう、パトリック卿」と声をかける。

 パトリックはハッと我に返ったように視線をアナベルに移し、「はい」と答えた。

「では、また今度お会いしましょう」
「あ、ちょっと待って。その準備っていつ終わるんだい?」
「そうですね……一週間以内には終わらせるつもりです」
「わかった。それまで彼女たちはここにいるからね」
「ええ」

 ぺこりと頭を下げて、アナベルとパトリックは娼館をあとにする。

 帰る頃にはすっかりと日が暮れていて、アナベルは馬車に乗ると宮殿に帰るまでのあいだ、うとうととまどろんだ。
< 179 / 255 >

この作品をシェア

pagetop