【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

 ◆◆◆

 いつの間にか寝入っていたらしい。

 アナベルは目を覚ますと、宮殿近くにきていたことを知る。そして、なにやら騒がしさを感じた。

「アナベルさま、絶対に降りないでくださいね」

 パトリックの声が聞こえた。どうやら、何者かがアナベルたちを取り囲んでいるようだ。

(宮殿近くで待ち構えていたってことかしらね……?)

 アナベルは身を低くして、窓の外を見る。

 薄暗くてよく見えない。

 パトリックが剣を振るっているようだ。金属のぶつかり合う音が聞こえる。

 敵が何人いるのかもわからない。パトリックだけを戦わせて良いものかと悩んでいると、ガチャリと馬車の扉が開いた。

「――寵姫(ちょうき)、みぃーっけ」

 ニタニタと下品な笑みを浮かべる人物。

 誰なのかはわからないが、こちらに危害を加えようとしていることだけはわかる。

「どちらさまかしら?」
「知らなくても良いンだよ。どうせその命はもう終わるンだからよォ」

 喋り方に独特のアクセントがある。おそらく、ここ――王都の人間ではないことは確かだろう。

「ああ、でもその可愛いツラはもったいないなぁ。首をちょん切って、持って帰ろうかなァ……」

 恐ろしいことを言われて、思わず身震いをした。

 そんなアナベルを見て、にやぁと邪悪な笑みを深くする。

「――オレが怖いかァ。そうかァ。じゃあ、怖くないように、さっさと終わらせてやらンとなァ!」
< 180 / 255 >

この作品をシェア

pagetop