【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
◆◆◆
いつの間にか寝入っていたらしい。
アナベルは目を覚ますと、宮殿近くにきていたことを知る。そして、なにやら騒がしさを感じた。
「アナベルさま、絶対に降りないでくださいね」
パトリックの声が聞こえた。どうやら、何者かがアナベルたちを取り囲んでいるようだ。
(宮殿近くで待ち構えていたってことかしらね……?)
アナベルは身を低くして、窓の外を見る。
薄暗くてよく見えない。
パトリックが剣を振るっているようだ。金属のぶつかり合う音が聞こえる。
敵が何人いるのかもわからない。パトリックだけを戦わせて良いものかと悩んでいると、ガチャリと馬車の扉が開いた。
「――寵姫、みぃーっけ」
ニタニタと下品な笑みを浮かべる人物。
誰なのかはわからないが、こちらに危害を加えようとしていることだけはわかる。
「どちらさまかしら?」
「知らなくても良いンだよ。どうせその命はもう終わるンだからよォ」
喋り方に独特のアクセントがある。おそらく、ここ――王都の人間ではないことは確かだろう。
「ああ、でもその可愛いツラはもったいないなぁ。首をちょん切って、持って帰ろうかなァ……」
恐ろしいことを言われて、思わず身震いをした。
そんなアナベルを見て、にやぁと邪悪な笑みを深くする。
「――オレが怖いかァ。そうかァ。じゃあ、怖くないように、さっさと終わらせてやらンとなァ!」