【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「ぐ、動かない……!」
「ハン! こんな氷……ッ!」

 必死にもがいて足を動かそうとする者、火の魔法を使って溶かそうとする者、襲撃者たちは氷の魔法から(のが)れようと、いろいろ試している。

「無駄だ。その氷は溶けない」

 エルヴィスの重低音が、彼らの耳に届く。

「誰に依頼され、彼女を襲った」

 怒りのオーラが見える。アナベルはパトリックに近付いて、怪我をしている彼に回復魔法を使った。

「そりゃア、その女が邪魔って人からさァ」

 ぴくり、とエルヴィスの眉が跳ねあがる。

「――言う気はなさそうだな?」
「任務の失敗は、死で(あがな)う――……」

 襲撃者たちは口の中に仕込んでいた毒薬をかみ砕き、飲み込んだ。

 ――自ら命を絶った彼らに、エルヴィスは眉間に(しわ)を刻む。

「ぁ……」

 その様子を見ていたアナベルが、顔を青ざめさせてふらりとよろけた。

 エルヴィスは素早く彼女を抱きとめる。

「――大丈夫、ではなさそうだな」

 血の気の引いた顔をしているアナベルに、エルヴィスが声をかける。彼女はぶるりと身体を震わせた。

 こんなふうに明確に狙われたことなど一度もなく、冷静になった途端、急激に恐ろしくなったのだ。

「……エルヴィス陛下、この男はどうしますか?」

 アナベルの放つ香りにあてられた男は、今も夢と現実を彷徨っているようで「ぐへへ」と良くわからない笑い声を上げている。

「逃げ出さないように捕縛して、口の中から毒薬を抜き、勝手に死なないようにしろ」
「はっ、かしこまりました」

 パトリックは胸元に手を置き、頭を下げる。エルヴィスはアナベルをひょいと抱き上げた。
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