【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「――怖かったろう、ベル。もう安心していい」
「……は、はい……」

 エルヴィスの香りに包まれて、アナベルはようやく安堵したように目を閉じた。

 宮殿の中に入り、警備を強化するように命じると、彼女を寝室へ運ぶ。

 ベッドに座らせると、彼女の足元に(ひざまず)いた。

 アナベルがそっと目を開けると、エルヴィスの心配そうな瞳と視線が絡む。

「エルヴィス……」

 (すが)るような、声が出た。震える身体と声に、アナベル自身が驚いた。

 そっと、エルヴィスが彼女の手を包み込むように握る。

 彼の体温を感じて、アナベルはその瞳から大粒の涙を流した。

 ポロポロと涙を流すアナベルに、エルヴィスは手を離して両腕を広げる。

 アナベルは迷わずに彼の胸の中に飛び込んだ。

 声を押し殺して泣くアナベルの背中を、エルヴィスは優しく撫でる。

 ――どのくらいそうしていたのか、わからない。

 エルヴィスはアナベルが落ち着くまで、背中を撫でてくれていた。

「……ごめんなさい、泣いてしまって。こういうことも、覚悟していたはずなのに……」

 ようやく落ち着いて、アナベルはそっと身体を離した。まだ心配そうに眉を下げているエルヴィスに謝罪の言葉を口にすると、彼は緩やかに首を左右に振る。

「いや……、私のほうこそ……まさかこんなに早く仕掛けてくるとは思わず、後手になってしまった。申し訳ない」

 アナベルは慌てて、「エルヴィスのせいではありませんっ!」と力強く言葉を紡いだ。
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