【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「エルヴィスも、無理や無茶はしないでくださいね。あなたになにかあったら、わたくし……どうすればよいのか、わかりませんわ……」

 アナベルはそっと彼の手を持ち上げて、きゅっと指を絡ませる。

 それを合図にしたように、エルヴィスとアナベルの唇が重なる。触れた場所から感じる体温に、アナベルは目を閉じた。

 エルヴィスがアナベルのことをベッドに押し倒そうとした瞬間、部屋の扉がノックされた。

 ぴたり、と動きを止める二人。

 エルヴィスはゆっくりと彼女から離れて、髪を掻き上げた。

「……誰だ」
「エルヴィス陛下、先程捕らえた人物なのですが……?」

 パトリックの声が聞こえて、アナベルはハッとしたように顔を上げる。

「魔法、解いたほうが良いですよね?」
「持続性があるのか?」

 首肯するのを見て、エルヴィスは立ち上がってアナベルに手を差し出す。

「一緒にいこう」
「はい」

 アナベルはその手をとって、エルヴィスとともに扉に足を進める。

 扉を開けて、パトリックの姿を見ると、彼は二人が手を繋いでいるところを見て、「お邪魔でしたか?」と小声で尋ねてきた。

「今はそれよりも、捕らえた相手のもとへ」
「あ、はい。地下牢に入れています」

 パトリックの案内で、地下牢へ移動する。地下牢の最奥に、一人の男がぼうっと焦点の合わない目を彷徨わせている。

 未だに夢と現実の境目にいるようだ。

 アナベルがパチン、と指を鳴らす。ふらふらと揺れていた身体がびくっと跳ね、辺りを見渡し始める。

「……アァ? なンだァ、ここは……?」

 さっきまで外にいたはずなのに、殺風景な場所にいることに気付いた男は、そこが牢屋だと気付くと一気にうろたえた。
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