【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

寵姫 アナベル 9話

「念のため、離れていてください」

 アナベルの言葉に、エルヴィスとパトリックは小さくうなずいて、彼女から少し離れる。

 牢屋にいる男をじっと見つめて、ふわり、と花が(ほころ)ぶように笑った。

「な、なンだよ……?」

 なぜ自分に美しい笑みをみせるのかわからなくて、男は困惑したようにアナベルを見る。

「――わたくしは、レアルテキ王国の君主、エルヴィスの寵姫、アナベル。あなたの名は?」

 アナベルから、甘い香りが(ただよ)う。

 ぼうっとしたように(とろ)ける瞳になった男に対して、問いかけた。

「……ジョン」
「そう、ジョンという名なの。では、どうしてわたくしを襲ったの?」
「お前、殺せば……金、もらえる……」

 ぽつぽつと言葉をこぼすジョンに、「お金?」と眉根を寄せる。

 ジョンは「そうだ……」とつぶやき、アナベルはさらに言葉を続けた。

「誰からの依頼?」
「……知らない、知らされていない……」
「……では、どんな人だったかは、覚えている?」

 自分を殺そうとした相手が誰なのか、見当はつく。

「……おぼえているのは、真っ赤なくちびる、だけ……」

 ――真っ赤な唇。それは、王妃イレインが好む口紅の色。

(幼い頃に会ったときも、紹介の儀で会ったときも、真っ赤な口紅だった……)

 そう考えて、「他には?」と聞いたが、それ以上の情報は出なかった。
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