【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「それじゃあ、別の質問をするわ。……あなた、この王国の人ではないわよね?」
「知らない。気が付いたら、ここにいた……、……、言うことを聞けば、よくしてくれた……」

 どういう意味かと(たず)ねても、彼はもう反応しなかったので、アナベルは魔法を使うのを止めた。

 すると、ずりと男が寝転ぶ――いや、気を失ったのだろう。

 目を閉じているのと、身体が呼吸で動いているのを見て、ゆっくりと息を吐いた。

「ごめんなさい、有益(ゆうえき)な情報は得られませんでした」
「いや、充分だ。それにしても……すごい魔法だな」
「……変な魔法でしょう?」

 アナベルは困ったように眉を下げて微笑む。

 パトリックは唖然としたように、アナベルと牢の男を交互に見ていた。

「ま、魔法だったんですか、今の……?」
「ええ、パトリック卿。内緒にしてね」

 アナベルが片目を閉じて人差し指を口元で立てると、パトリックは「か、かしこまりました!」と何度もうなずいた。

「きみは本当に未知数だな……」
「お褒めの言葉として、受け取りますわ」

 にっこりと微笑むアナベル。エルヴィスはそっと手を伸ばして彼女の身体を抱き上げる。

「エルヴィス陛下!?」
「パトリック、今夜、私はこの宮殿で休む。オーブの保存を頼んだぞ」
「承知いたしました、エルヴィス陛下」

 頭を下げてオーブを大切そうに抱えるパトリックに、いきなり抱き上げられて動揺するアナベル。

「落ちないように、私の首に腕を回して」

 エルヴィスの指示に、言われた通りに腕を回し、落ちないようにぎゅっと抱きつき――そこでようやく、自分が震えていることに気付いた。
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