【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

寵姫 アナベル 10話

 朝、目が覚めると隣には誰もいなかった。どうやらエルヴィスは先に起きたらしいと判断し、アナベルはゆっくりと起き上がる。

 じっと自分の手を見つめて、震えていないことを確認するとほっと安堵の息を吐いた。

「アナベルさま、起きていますか?」

 ノックの音に続いて、メイドの声が聞こえる。

「ええ、入ってちょうだい」
「失礼します。こちら、エルヴィス陛下からです」
「ありがとう」

 カードを差し出すメイドを見上げ、お礼を伝えてカードを受け取った。

 視線を落とし、メッセージを読んで表情を(ほころ)ばせる。

「あの、昨日こと……パトリック卿から簡単に説明を受けました。……怖かったでしょう……?」

 メイドはアナベルの近くにしゃがみ込み、カードを持っていないほうの手を包み込むように握った。

(――本当に、心配してくれているのね……)

 その心が嬉しくて、アナベルは「大丈夫よ」と穏やかな口調で、安心させるように微笑む。

「確かに怖かったけれど……大丈夫よ。心配してくれて、ありがとう」

 その微笑みを見て、メイドはアナベルの瞳をじっと見つめて、安心したようにうなずいた。

「……アナベルさま、これは私の独り言です」

 メイドはぽつりぽつりと、この宮殿で暮らしていた寵姫(ちょうき)たちのことを話し始めた。

 エルヴィスからの寵愛はなかったが、彼女たちは自分の家にいるよりはずっと良い環境だと話していたこと、穏やかな時間を過ごせることに感謝していたこと。

 しかし、王妃イレインの話が出ると、その場が凍ったらしい。
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