【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

寵姫 アナベル 11話

 アナベルの考えた、最悪の事態。

 それは、自分が王妃イレインに()らえられ、宮殿の執事やメイドたちが危険に(さら)されること。

 イレインは寵姫(ちょうき)には手を出すが、宮殿の執事やメイドには手を出さない。

 寵姫以外の宮殿の者に手を出せば、すぐに調査が始まるからだろう。

 アナベルがイレインの手に落ちれば、協力者の名を告げろと言われる可能性が高い。

(この人たちの家族を巻き込みたくない……)

 そんな最悪のことを考えて、アナベルは目を伏せる。

「私たちのことを考えてくれるのはありがたいですが、アナベルさまが一番ですよ?」
「――ええ、ありがとう。さあ、この鬱々とした気分を変えるためにも! 剣の稽古をがんばりますわ!」

 演習場に向かう前の廊下で話していたから、アナベルは窓の外に視線を移す。アナベルたちの気分とは裏腹に、まぶしい太陽がさんさんと光を降り注いでいた。

 スタスタと早足で演習場へ向かい、パトリックの姿が見えたので声をかける。

「ごきげんよう、パトリック卿。昨日はありがとうございました」
「アナベルさま。……その、大丈夫……ですか?」
「……ご心配、ありがとうございます。大丈夫ですわ」

 アナベルの表情をじっと見つめて、パトリックは吐息をもらす。

「それなら、良かった。では、今日も始めましょうか」
「はい、お願いします」

 丁寧に一礼して、剣の稽古を始めた。
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