【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 やはり、パトリックは強かった。勝てるようになるかはわからないが、彼の教え方はアナベルにとって、とてもわかりやすくてありがたいものだ。

「……本当は、アナベルさまに戦ってほしくはありません。しかし、昨日のことで考え方が少し変わりました。……想像以上に、王妃殿下は恐ろしい人です」
「あのあと、なにかありまして?」

 剣の稽古を終えたアナベルは、タオルで汗を(ぬぐ)いながらパトリックに問う。

 彼は少し考えるように唸ったが、「まあ、すぐに耳に入るでしょうし……」と頬をかいた。

「――あの男、あれから正気を取り戻して、再び尋問を行ったんですよ。王妃イレインも参加して」
「……え?」

 王妃であるイレインが、尋問に参加した……? と予想外のことを言われて目を丸くするアナベル。すっと右手を上げて、「いったい、どんな尋問を……?」と聞いてみると、彼は眉を下げる。

「王妃陛下は、あの男の背中を鞭で打っていましたよ」
「む、鞭で?」

 こくりと肯定するパトリックに、アナベルは動きを止めて昨日の男を思い浮かべた。

「背中から血が出ても、誰も王妃陛下から鞭を取り上げませんでした。というか、取り上げたら、次の犠牲者は自分だと気付いているんだと思います」
「お、恐ろしい人ね……」
「結局、王妃陛下の気が済むまでやっていましたからね……」

 遠い目をするパトリックに、アナベルは眉を下げて言葉を()み込んだ。
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