【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 ざわめきが強くなった。

 王妃であるイレインを誘わずに、隣にいる女性を誘いこのパーティー会場にきたという陛下に、周りの人たちの戸惑いが大きくなる。

 ふるふると肩を震わせて、陛下たちを睨みつける王妃に、女性が陛下のぎゅっと握り、眉を下げて微笑んだ。

「――わたくしは、あなたがどんなことをしてきたのかを知っていますわ、イレイン王妃。……あなたは、わたくしのことをご存知ですか?」

 問いかける言葉は冷たかった。王妃の目がつり上がり、ばっと腕を振って「(いや)しい踊り子が話しかけないで!」と声を荒げる。

「――ええ。あなたのせいで帰る場所を失い、踊り子として生きていたわたくしを、陛下が見初めてくださいましたの。ようやく、あなたとお話しできますわね。――あの日のことを、わたくしは一日だって忘れたことはありませんわ」

 女性は陛下の手から離れて、静かに王妃のもとへ向かった。

「――若い女性の血を浴びて、若返りの効果はありましたか?」

 ひそり、と耳元でささやくようにつぶやくと、王妃がバシンッと乾いた音を響かせて女性の頬を扇子で殴る。

「アナベル!」

 すっと手を上げて陛下が近付くことを拒むアナベルと呼ばれた女性。

 にやりと口の端を上げ、殴られた頬を(さす)る。

「これで、正当防衛確定だねぇ?」
「な――っ!」

 ドレスをまくり上げてナイフを手にすると、切っ先を王妃に向けた。

 誰も、動かなかった。王妃はそのことが信じられなかったようで、周りの人たちを睨む。

 自分に危機が迫っているのに、どうしても誰も助けないのか、と――……

「無駄さ、王妃サマ。……あんたの天下は、今日で終わりだ」

 しんと静まり返ったパーティー会場に、アナベルの声が響いた。
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