【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 そっと彼女の髪を撫で、寝顔を見つめる。

「んぅ……?」

 薄く目を開けたアナベルは、自分の近くに誰かがいることに気付くと、身体を硬直させる。

(……だれ……?)

 優しく頭を撫でる手の感触に、再び目を閉じる。

「ゆっくりおやすみ、ベル」

 甘く(とろ)けるような声でエルヴィスがささやく。その声を聞いて、アナベルはハッとした目を開けた。

「……エルヴィス陛下……」
「……起こしてしまったか、すまない」

 アナベルはエルヴィスの姿を確認すると、ふわりとはにかみ、そして彼に手を伸ばす。

 エルヴィスがアナベルの手を取ると、きゅっと指を絡めて目元を細めた。

「今日は、会えないかと思いましたわ……」

 眠いのだろう、アナベルの声はいつもよりも甘えたような声が出る。

「寂しい思いをさせてしまったかい?」

 エルヴィスはそんなアナベルを愛おしそうに見て、微笑んだ。髪を撫でていた手が、彼女の頬に添えられた。

「ええ、とっても。……でも、わたくし、わかっていますのよ。エルヴィス陛下はとてもお忙しい方だって。ですから……無理は、なさらないで……くださいね……」

 徐々に小さくなる言葉。

 最後のほうはほとんど言葉になってはいない。

 目を閉じたアナベルに、エルヴィスはふっと表情を(やわ)らげる。

「……ありがとう、ベル」

 ちゅっ、とアナベルの額に唇を落として、エルヴィスはベッドにもぐり込み、彼女のことを抱きしめて眠りについた。
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