【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 翌朝、アナベルは身動きができないことに気付いて、目が覚めた。

 視界に入ったエルヴィスに、びっくりして身体が硬直する。

「え、エルヴィス陛下……?」

 自分が抱きしめられていることに気付くと、アナベルは顔を赤らめて声をかけた。

 すると、エルヴィスがゆっくりと目を開けて、彼女の顔を愛しそうなまなざしで見つめる。

「きみの顔を見ると、なんだかホッとするな」
「……え?」

 エルヴィスは静かにアナベルから離れて起き上がる。続くように彼女も起き上がった。

「……深夜の、本物の陛下だったのですね。すみません、寝ぼけていたみたいで……」
「いや、ただ顔を見にきただけだったんだ。だが、ベルが可愛いことを言うから、一緒に眠ってしまった」

 可愛いこと? とアナベルが考えて、ぼっと顔を真っ赤にさせた。

 それを隠すように顔を(おお)うと、エルヴィスがくすくすと笑う。

「寂しい思いはこれからもさせるだろう……許してくれるか?」
「もちろんですわ、エルヴィス陛下」

 心を落ち着かせるように深呼吸を繰り返してから、胸元に手を置いてうなずいた。

 エルヴィスは彼女の髪にちゅっと軽く口付けると、ベッドから抜けて「それでは、仕事に行ってくる」とアナベルの部屋から去っていく。

「……し、心臓に悪いわ……」

 ドキドキと高鳴る鼓動。アナベルは少し困ったように息を吐いて、それから再び深呼吸を繰り返した。
< 208 / 255 >

この作品をシェア

pagetop