【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……こんなに景気よくぱぁっと使ってくれる人は、娼館でも滅多(めった)にいないよ」

 ロクサーヌたちは楽しそうに笑っていた。

「でしょう?」
「……それで、あたしたちを雇って、なにをやろうとしているの?」

 イネスがすらりと白く細い足を組んで(たず)ねる。

「良いの? 聞いたらもう引き返せないわよ?」
「……構わないわよ。だぁってあたしたちは『そういう存在』だし」

 カミーユがにぃっと口角を上げた。アナベルは三人を順々に眺め、「頼もしいわ」と感嘆(かんたん)の息を吐く。

「宮殿についたら教えるわね。その前に、寄りたいところがあるの」

 パチンとウインクしてから、アナベルは孤児院を巡った。

 そのあいだ、碌さ―ムたちは馬車で待っていてくれるようにお願いした。

 最後――王妃イレインがよく支援している孤児院に向かうと、豪華な馬車が視界に入る。

 アナベルはそこから死角になる場所に馬車を止め、様子を(うかが)うことにした。

「……あの人が、王妃イレイン……」

 初めて見た、とつぶやくロクサーヌたちに、アナベルはイレインに視線を注ぎながら、

「よぉく覚えておいてね。わたくし、彼女からすべてを奪うつもりですの」

 ――と、不敵に笑った。

 イレインは一人の少女と一緒に馬車に乗り、その馬車は王城の方向に走り出す。

「……さっきの少女は……?」
「……王妃サマへの(みつ)ぎもの、かしら」
「あら、怖い。……では、その怖い人相手に、どう立ち向かうつもりなのか、いろいろ教えてね?」
「もちろんよ。少し待っていて、ここにも寄るから」

 ロクサーヌたちを馬車に残し、孤児院を訪れ院長と軽く会話してから戻る。そのまま宮殿に帰ることにした。
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