【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
「……どうかした?」
「いっ、いえ……」

 鋭い眼光に射貫(いぬ)かれ、怯えたようなマルトに、アナベルはふふっと笑い声をもらす。

「大丈夫ですわよ、みんな優しい人たちですから」
「は、はぁ……」

 おどおどしているマルトを見て、アナベルはイレインの考えていることを想像する。

 年の若い、貴族ではない少女。

 ……おそらく、あの孤児院から引き取った少女だろう。

 確かに少女の見た目は愛らしいが、アナベルたちに比べると地味な印象を受ける。

「それにしても、王妃陛下が年若い少女を贈るとは意外でしたわ」

 イネスがそう切り出した。彼女の話題に乗るのはカミーユだ。

「私も。しきたりを教えるって書いてありましたから、もっと年配の方がいらっしゃるのかと。私たちよりも若い少女がくるとは、意外でしたわ」

 にこやかに、穏やかに話しているが、マルトには負担だったのだろう。うつむいたまま顔を上げない。

(――王妃陛下……どうしてですか……?)

 ぐっと唇をかみしめるマルトに、アナベルはすぅっと目を細めた。

「……あ、ついたみたいですわね。それではみなさん、夜会を楽しみましょうか」

 目的地につくと、アナベルたちはルサージュ伯爵邸へ足を運ぶ。

 ――中は、とても賑わっていた。
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