【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
 会場内を歩き、コラリーの姿を探す。そのあいだ、会場はとても静かだった。自分たちに視線が集中していることに、アナベルは周りに対してにっこりと微笑みを浮かべる。

「――美しい人魚のようだね、アナベルさま」
「ありがとうございます」

 その静寂を破ったのは、ダヴィドだった。彼も招待状を渡されていたようだ。

「それに、彼女たちも美しい。いやぁ、目の保養に良い美女揃いだ。……それにしては、彼女の系統が違うようだが……?」

 ちらり、とマルトに視線を落とすダヴィド。マルトはびくっと身体を震わせる。

「ご紹介しますわ、ダヴィドさま。この子はマルト。王妃陛下がわたくしにくださったのです」
「へえ、王妃陛下が、ねぇ……」

 なにかを見極めるようにマルトを眺めるダヴィドに、アナベルは彼女の肩に手を置き「ほら、デュナン公爵にご挨拶を」とうながす。

「ご、ごきげんよう、デュナン公爵」

 ぎこちなくカーテシーをするマルトに、ダヴィドは「ああ、よろしく頼むよ」と微笑んだ。

「ちなみに、後ろの人たちも紹介してくれるのかい?」
「もちろんですわ。ロクサーヌ、イネス、カミーユ」

 彼女たちの名を呼ぶと、彼女たちは(あで)やかに美しく口元に弧を(えが)き、それぞれ挨拶をする。

 ――蠱惑(こわく)的な微笑みを見た貴族の男性たちは、思わずというように喉を鳴らした。
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