【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

寵姫 アナベル 16話

 夜会では食事や談笑だけではなく、ダンスも楽しんでもらえるように音楽が流れている。

 注目を集めていたアナベルたちは、いろいろな人たちにダンスの相手を申し込まれ、彼女たちはその手を取って何度も踊った。

 マルトは壁の花になり、羨望のまなざしでアナベルたちを見ている。

「きみは踊らないのかい?」

 マルトに声をかけたのは、ダヴィドだった。

「――わ、私は、ダンス……苦手で」

 マルトはビクッと肩を跳ねさせ、さっと彼から視線をそらす。

 彼女の言葉が意外だったのか、「王妃陛下の侍女だったんだろう?」と不思議そうに尋ねるダヴィドに、マルトはぎゅっと拳を握り込んだ。

 それを見たダヴィドの目が、すぅっと細くなり、腕を組んで言葉を続ける。

「……きみは寵姫(ちょうき)に『しきたり』を教えるためにきたんだろう?」

 探るような物言いに、マルトは沈黙を(つらぬ)く。

「ま、あんまりアナベルちゃんを困らせないようにな?」

 軽く笑ってダヴィドはぽんぽんと、マルトの肩を叩いた。彼女はいやそうに眉根を寄せたが、無言のままだった。

 連続で踊り、休憩を申し出たアナベルたちがダヴィドとマルトに近付いていく。

「あら、マルト。デュナン公爵とお話ししていましたの?」

 アナベルがダヴィドに、「マルトの相手をしてくださってありがとうございました」とお礼を伝えると、彼はひらりと手を振った。
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